佐藤広美委員長からのメッセージ

ZOOMによる遠隔シンポジウム「コロナ禍と学校・子ども」の試みなど

                        佐藤広美(教科研委員長)

 6月に入り、3月から休校の措置にあった多くの学校が再開されました。分散式授業を取り入れるなど、さまざま状況に見合う工夫を凝らしてのはじまりとなりました。
 これまで子どもたちはどんな様子で家庭で過ごしていたのでしょうか。親御さんは、どんな気持ちで子どもたちと接し、日々の暮らしを過ごしてきたのでしょうか。
 しばらくぶりの教室は新鮮な感じだったのでしょうか。先生方は笑顔で迎えてくれたのでしょうか。
 この間に、「9月入学」がにわかに問題になりました。受験生の心配な気持ちに応えるという意図は理解されましたが、これはあまりに拙速な解決策のように私は受け止めました。コロナ禍のもと、子どもや家庭、学校や教師にどんな問題が具体的に生じたのか、それをどのように解決しなければならないのか、問題の重大性と拡がりはもっと別の所にあるのではないだろうかと思いました。9月入学は、今決められた「教育課程編成」は絶対に動かすことの出来ない基準であり(公正・平等に実施する)、これをしっかり守り、少しでもこれを「変える(変更する)」という事実が起こることをひどく嫌うという心性が教育行政側の人びとにあったのかな、と推測したりもしました。かえって、9月入学という対応策の思想的な硬直性のようなものが気になりました。
 学校が再開され、なにより、まずは、子どもたちの健康と学力のことが気になります。先生方と親御さんの目もそこに集中していることだと思います。学校の教育課程とはなにか、どんな考え方で教育内容は決められているのか、もっと、子どもたちの実情にあわせて柔軟に対応させていいのではないのか。教育内容の精選とか、自主編成とか、という対応があっても良いのだと思いますが、こんな問題が提起されているように思います。
 また、デジタル教材の開発や遠隔授業の実験的導入などもあって、その有効性も考えられますが、学校に通えなかった子どもたちを思うにつけ、子どもたちに身につけさせたい本当の学力って何なのだろうか、という根本的な問いが浮かんできます。もう一度、あらためて考えてみてよいのではないだろうか。先生も親も、誰もがそんな問いをあらためて感じはじめたのではないでしょうか。
 そして、私が一番思うことは、このコロナ禍をどう受け止めればよいのだろうか、という問題です。これを子どもたちといっしょに考えたいということです。子どもたちはコロナ禍の中で、いったい、どんなことを考えたのだろうか。今まで気がつかなかったことで、実はこれはとても大切なことだと発見したことがけっこうあるのではないでしょうか。子どもたち一人ひとりのコロナ禍体験を、教室でゆっくり語って聴いてみる、そうした時間が作り出されたらいいなあ、と感じました。
 元の生活に戻れることのしあわせということも重要ですが、もう少し考えを進めて、もう二度とこのような感染症による命の危険と生活の破壊が起きないような社会の仕組みをあらたに作り出していく、そのような生活のしあわせを想像してみることの出来る人間の姿を、教室の中で子どもたちといっしょに語り合えたらいいなあ、と思うのでした。
 私は、この間、そんなことを考えてきました。同じような思いでおられる方々も少なくないでのではないでしょうか。
 それで、教科研としては、このコロナ禍の中で見つけたZOOMという遠隔情報器機(の利点)を利用して、全国にいる教師・親御さんら(全国委員と常任委員)に呼びかけて、「コロナ禍と学校・子ども」に関するシンポジウムを先日開催しました(5月24日)。先生や親や保育士さんらに、この間の子どもたちの様子や自分たちの気持ちを語ってもらいました。50名ほどの参加がありました。みなさん熱心に聞いていたようです(実際のところはテレビ会議ですのではっきりはしませんが)。これは好評だったので、6月20日、第2回目を開催します。さらに、この経験を生かして、さまざま多様な形式(情報器機の利点も生かして)の集会を開きたいと思っています。『教育』(旬報社)や『教科研ニュース』などとも連携させて、とり組んでいきたいと思っています。
「子どものしあわせ おとなもしあわせ」(2020年奈良大会のメインテーマだった)をじっくり考える教育の研究と実践をさらに進めていきたいと願っています。このHPの情報をご覧下さい。