新教科研委員長 挨拶
教科研委員長をお引き受けして
―教科研のアイデンティティとは―
2010-09-20 教科研委員長 佐貫浩
この夏の釧路大会の場で開かれました教科研総会において、教科研委員長の任を引き受けさせて頂きました。1952年再建以来もう60年近くになりますが、その間4人の方が委員長の仕事を務めてこられました。勝田守一、大田堯、山住正己、そして田中孝彦前委員長です。平均で15年、委員長の任についておられた計算になります。
すでに私は、63歳ですので、就任時の年齢が一番老齢の委員長ということになります。教科研の役員のにない手を新たな若手へとバトンタッチするための委員長が、歴代最年長の委員長ではあまりつじつまが合わないとも言えますが、頑張って委員長としての役割を果たしていきたいと思います。教科研という団体の変化、あるいは主体的条件の変化の下で、これからは、3年という任期付きということとなりました。会員の皆さんの支えを受けて、これからの時代の課題に全力で取り組んでいく教科研の新しいありように挑戦していきたいと考えております。
教科研のアイデンティティとは何かを考えるとき、時代の先端の教育の課題に、教育の自由と進歩をかけて意気高く取り組む挑戦者であることと言えるように思います。しかし戦後から1970年代の半ばまで、戦後の民主主義教育教育開拓の文字通りのフロンティアに立っていた教科研の理論的な蓄積が、改めて問い直されるような状況が生まれてきました。すでにその時代が本格的な歴史研究の対象になるという意味では当然のことでもありますが、同時に、1990年代から展開しているあらたな時代──もはや60年間を一つの戦後としてひとくくりにすることはできない時代の変化を画した今日──に対して、そういう戦後の蓄積の上に構築されてきた理論が、いかなる把握をなし得るのか、なし得ているのかが問われているということでもあります。そういう点では、教科研の戦後の貴重な蓄積を如何に継承し、さらに現代に挑戦する理論として、深い批判を含んで新たにどのように展開させうるのかが、私達の仕事として厳しく問われてもいます。教科研などに対して向けられている「戦後教育学批判」なるものに対しても、現代の課題に正面から挑戦するという姿勢において、積極的な応答をしていきたいと考えます。
しかし、教科研のアイデンティティというものをその根本において把握するならば、何よりも、教育現場という時代のフロンティア、人間の歴史的成長を見いだし組織していくフロンティアにおいて、日々、まさに命をかけるといって良いほどのエネルギーの傾注とと苦闘の中から作り出される充実と感動、新たな人間の発見とそれを支える方法の創造2こそあると言えるでしょう。そういう場を共有し、その場に生き、そこにおいて教育実践と教育学理論の構築を協同して進めようとしているということそのものの中に教科研のアイデンティティが実現されるのではないかと思います。
新自由主義教育改革によって教育現場が攪乱され、競争と自己責任の論理の下で格差貧困の困難が席巻している今、その困難に、動揺することなく向かい合う視野と視点が、新たな教科研のアイデンティティを拓くと確信しています。
大胆で、自由で、人間的で、歴史的な、現実と地域に深く根ざした教育実践と研究を、切り拓いていきましょう。委員長としての仕事を、新しい5人の副委員長や事務局長の皆さん、そして全国の会員の皆さんに支えられて、精一杯務めていきたいと思います。よろしくお願いいたします。