教科研委員長  片岡 洋子

教育科学研究会(以下、教科研)委員長の片岡洋子です。2022年8月から委員長を務めております。

教科研は戦前に発足し1951年に再建された民間教育研究団体です。教科や領域を限定しない学校教育全般にわたる教育実践研究、また政治と教育、地域と教育、子ども・若者の文化論、発達論など学校内外にわたる教育研究をおこなっています。


2023年2月、研究活動方針を確定しました。

「危機の時代のなかで子どもとともに生きる教育実践を社会的共同の力で創造する ─新自由主義社会への子どもの根源的な問いに応えて─」

「子どもとともに生きる教育実践」とはどのような実践を指すのか。それを考えるために、「子ども理解」と「自己の育ち」をキーワードにしています。

「子ども理解」とは、教師や発達援助者の側からの一方的な子どもの観察や解釈ではなく、子ども自身が現実と自分を理解し、生活を変革し、未来を拓く主体として成長することを可能とする教育実践のあり方を問うものです。子どもは自ら感じたり考えたりしたことをことばや行為で表現し、それに応答する他者の存在を支えに、自分自身を理解していきます。子どもの自己理解が「子ども理解」のかなめであり、子どもが自分をどのようにわかろうとしているかを知ることで、おとなは子どもを理解し、教育への手がかりを得ることができるのです。

しかし現代では、そのように子どもが自分を理解し他者からも理解されるという、子どもが人間として育つ土台が保障することが難しくなっています。そうしたなかで、教師や発達援助者が子どもとの応答関係をどのようにつくっていけるか、子どもどうしが自他に関心をもち尊重しあう関係性をどのようにつくっていけるか、ねばり強く試行錯誤の実践をしなければなりません。子ども理解とは、そうした実践のプロセスそのものでもあります。

さらに、子ども・若者とのいっそうの深い対話を通して、彼ら一人ひとりの個性的な発達過程によりそう教育実践の探究を、「自己の育ち」に着目して進めたいと考えます。「自己の育ち」をどう定義するか自体が研究課題ですが、さしあたり「自己の育ち」とは、自らのなかにある「悪」や「攻撃性」そして「弱さ」などをも含みつつ、他者・世界との関係のなかで意識されるものであり、それは絶えず更新され続けるものであること。またそれは「自分は自分である」という自己感覚を基盤とするものであって、他者からの評価で誘導されるものではないこと。子どもが自己をどう理解し、どのような志向や他者との関係をつくりだしていくか、自分で自分をつくっていく時間的経緯も含めて「自己の育ち」と呼んでいます。

新自由主義による競争と自己責任の論理が子どもの生活世界にも浸透しているため、子どもの「自己」には優勝劣敗による傷つきや攻撃性が刻印されています。そのため、他者に暴力的にふるまってしまったり、他者を寄せつけず心を閉ざしておびえたりしている子どもたちがいます。安心できる他者との関係をていねいにつくり、子ども自身がいらだちやおびえをことばにして自分を表現できるようにすることが、子どもの自己理解と安定になり、子ども自身が自分で自分を育んでいく「自己の育ち」になります。今の社会や学校の現状においては、とても難しいことですが、そうした子ども理解と自己の育ちをめざした教育実践を教科研編集の『教育』で共有したり、研究会で話し合ったりしています。

私自身は生活綴方教育、ジェンダーと人権教育について主に研究してきました。大学生のときから『教育』を読み、大学院生のときに教科研会員となって、教科研を研究の足場にしてきました。教科研で出会った教師たちとその教育実践から大いに学んできました。委員長2期目になりましたが、未来の子どもと教育にふさわしい教科研を手渡していけるよう尽力したいと思っております。

経歴;東京都立大学大学院博士課程単位取得退学、千葉大学教育学部教授を定年退職。
主な著書:教育科学研究会編『子どもの生活世界と子ども理解』(共編著、かもがわ出版、2013年)、教育科学研究会編『戦後日本の教育と教育学』(共著、かもがわ出版、2014年)、『子どもの本から世界をみる』(共編著、かもがわ出版、2020年)、『学校の「男性性」を問う』(共著、旬報社、2025年)、『つまらない中学をどう変えるかーフランス発・フレネ教育が拓く子どもの未来』(共編著、明石書店、2026年)