
月刊誌『教育』 2024年11月号
- 特集1
- 学校の「男性性」を問う
- 特集2
- 先生が学校を休むとき
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目次
特集1 学校の「男性性」を問う
- 男性性と教員の「暴力」
- 「男性性」の“くびき”をまなざす
- 教室の風景をフェミニズムの視点から眺める
- 男子の聖域
- 男子校でこそ感情の言語化を
- トラブルとしての異性装
- フェミニズムから男性性を問うことはできるか
特集2 先生が学校を休むとき
- 教員の病気休職等の調査結果から見える問題
- 思わぬ休職
- 自分らしく働き、休めたら
- 夫・父・教師としての育休
- 仕事を休んで学び直すこと
- 教員の休む権利と定数改善
シリーズ
- <子どもの風景>「ただいま」から始まる放課後
- <ちいさな教材・教具たち>フロアバレーボールの世界へ
- <「学校メガネ」をはずしてみたら?>トイレって悩ましい
- <円窓より──ジェンダーのまなざし>学校生活で「同意」を学ぶ
- <毎日がチャレンジ!>秘密の手紙
- <教育情報>学術会議「法人化」の罠──教育者は無関心でよいのか
- <映画評>『若き見知らぬ者たち』
- <書評>
- 加用文男さんのあそび論を語る会編集『ゆかいなゆかいな仲間たちと──保育運動と共に歩んだあそび研究者:追悼加用文男さん』
- 全国民主主義教育研究会編『社会とつながる探究学習──生徒とともに考える22のテーマ』
- <私の誌面批評>勇気をもらえる特集
- 教育の言葉
- 『教育』読者の会
- 教科研常任委員会だより
- 教育月報
- 編集後記
特集 とびら
【特集1】
日本がジェンダー後進国であることは、周知の事実である。特に政治・経済の分野で不平等が目立つ。それに比較すれば、教育の分野は平等だと思われがちだ。しかし、本当にそうなのか?
日本のジェンダー教育研究は、女性教師の働き方、キャリア形成、大学進学率、性教育、教科書等々、様々な問題を明らかにしてきた。重要な成果だ。
それでもなお、学校教育が内包する男性性を問うことは、困難だ。日本の学校は教師や子どもが論理や理性ではくみきれないからだを持ち込む教室を想定していないし、学習とは理性・客観性・自立が重要だとしているからだ。さらに、現在の新自由主義的な価値観は、学校で獲得するべき力を、他者に対抗し、他者を上回る競争力だと規定する。競争に勝ち抜かなければ、学力もキャリアも獲得できない構造が強化され、私たちはいつの間にかその状況に慣れてしまっている。
子どもの声を聴き、その感情や情動に応答し、共同の学びを紡ぎ出そうとする実践が学校を組みなおすものであることは疑わないが、学校体制の男性性への視座がなければ、誰のどんな声が奪われているのか気づきようがない。感情と情動にあふれ、主観的で依存的な声を聴くことは、教師の技量ではなく知見の問題でもある。
子どもも教師も命とからだを大切にして生きる学校を生むために、学校の男性性を考えてみた。この特集の実践と論考が、新しい学校教育の萌芽となることを願っている。
編集後記
「弱音を吐かずに頑張れ」「他の奴に負けるな」というメッセージは、学校現場においてごく自然なものとして浸透している。実は学校だけにとどまらず、社会全体でも同様であるが、発達を願う教育現場では、「力」への志向との親和性は高い。
また、教師がもつ権力性と男性性との重なりもまた、きちんと踏まえておきたい。「男性/教師であること」は、逃れられない属性・立場としてあるが、そこに孕みうる権力性との距離は、個々のあり方に委ねられる。ともすると、「あたりまえ」として見過ごされがちになるが、その下で抑圧され排除されてしまう声に耳を傾けたい。
男性性のイデオロギーは、制度次元から個々の振る舞いレベルまで幅広く遍在しており、そこから逃れることは容易ではない。しかし、「視点」を獲得し気づくことで、得体のしれないしんどさを少しは和らげることができるし、少しずつ状況を変えていくこともできる。そこに寄与しうる教育実践はいかに構想可能なのか、考えたい。
「学校の男性性」とも絡む問題として、「休めない風潮」がある。それは何よりもまず、制度的な不備や人員配置の余裕のなさ、教員不足などの問題が大きいが、「努力し頑張る」ことで苦境を乗り越えていくという風潮に起因する側面もあるだろう。
人員が限られている状況で誰かが休むと、その業務を他の誰かが担わなければならない状況が生じる。そこに「周りに迷惑かけるな」という圧力が加わることで、無理して頑張る状況が常態化し、過労で潰れていく(さらに業務が積み重なる)。そうした悪循環が蔓延する学校をどう乗り越えていけるか。「休むこと」を積極的に活用していく運動も求められてくるだろう。
特集1は石本日和子、菅野真文が、特集2は片岡洋子、増田陽、高山春佳が担当した。
(南出吉祥)